薬事ニュース社
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>>>1丁目1番地<<<
 最近はあまり耳にしなくなったが、「1丁目1番地」とは、優先すべき事項のなかでも最重要の事柄、すなわち「最優先課題」をたとえる表現として用いられる政治用語。「新型コロナ対策の1丁目1番地はワクチン」といった具合。
 もちろん、元々は住所のことである。ただの住所ではあるが、「1丁目1番地」というと、何となく縁起がいい、というか神々しい、ような気がする。実際、本の街として名高い東京・神田神保町のランドマーク、三省堂書店本店は、名実ともに街を象徴する「1丁目1番地」だ。その三省堂書店本店が、来年3月末で閉店すると発表した。
 ビル老朽化に伴う建て替えのためで、22年3月末で本店の営業を終了し、4月から解体を開始、新本店の竣工は25年~26年頃を予定しているとのこと。製薬業界にも、書店近くの大学出身者は多いが、かくいう弊社も事務所がご近所で、なんやかやと世話になった。またひとつ、慣れ親しんだものが消えていく。何とも寂しい限りである。
 閑話休題。かつては製薬業界にも、「イノベーションの1丁目1番地」ともてはやされた時期がある。07年版「医薬品産業ビジョン」では、「医薬品産業は、成長に貢献するイノベーションに資する分野として、いわばイノベーションの1丁目1番地ともいえる重要な役割を担っている」と明記された。ところがいつの間にか、医療費削減のための「打ち出の小槌」のように扱われだした。しかし現下の新型コロナ禍のもとで、状況は一変。ワクチンや治療薬の重要性が叫ばれ、製薬業界に寄せられる期待は大きい。
 新型コロナ対策と経済の両立には、ワクチンや治療薬が欠かせない。最新版の「ビジョン」では、医薬品産業を「国民を健康危機から守ることで、患者本人や家族の日常生活だけでなく、消費活動、労働参加など経済活動も支えている」と位置付けた。「経済再生の1丁目1番地は医薬品産業」といわんばかりの厚遇ぶりではある。
(2021年10月1日掲載)