薬事ニュース社
オピニオン

>>>話題の映画が描き出すのは医療の未来図か?<<<
 民間保険会社(HMO)の関係者が「保険給付はすべて無駄、というのが業界用語」と臆面もなく口にし、採算重視の保険会社に給付を拒否された患者(糖尿病や脳卒中などリスクの高い既往歴のせいで保険加入を拒否された人、不必要な手術として給付を拒否されたために治療を受けられず死亡した子供、高額な医療費のせいで持ち家を手放す羽目に陥る中年夫婦など)が次々と苦渋を訴える。片や医療機関も「治療(=給付)を認めないほど優秀な医長」と評価され、挙句には治療費支払い能力を失った入院患者を、文字通り路上に放り出す始末。話題の映画、「シッコ」が暴露する、米国・医療制度の想像を絶する内幕である。
 さて、こうした米国の実態を目の当たりにして薄ら寒さを覚えるのは、とても対岸の火事とは思えないからだ。映画では英仏加など、「高負担高給付」を実現している国を米国との対比で紹介する。日本はどうやら現状では両者の中間あたりと言えそうだが、医療をめぐる近年の論議の先に浮かび上がるのは、効率重視の米国型と言えなくもない。「医療は無駄が多い」と目の敵にする官僚や学者の言説は米国の民間保険会社のそれとだぶる。医師の地域偏在、産科医や小児科医の不足と、それに伴う救急患者のたらい回しなど、「医療崩壊」とも呼べる現象が、日本の地域医療の足元を揺るがしている現実もある。映画を警告と受け取るか大袈裟と決め付けるかはそれぞれだが、少なくとも2200億円を圧縮するために政管健保の国庫負担を削るなどという小手先の財政論議に終始しているようでは、バラ色の未来などは望むべくもない。
(2007年9月14日掲載)