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>>>「タケダの魂」は新会社に託された<<<
 武田薬品が、OTC医薬品事業会社の武田コンシューマーHC(TCHC)を、米投資ファンドのブラックストーンに譲渡することを発表した。主力ブランドの「アリナミン」は、かつて同社の利益の大半を稼ぎ出していた時期もあり、長く武田薬品の屋台骨を支えてきた、いわば同社の代名詞ともいえる製品。現在の売上は、主力の医療用医薬品の売上とは比べるべくもないが、一般消費者にとってはいまでも「タケダ」といえばまず「アリナミン」であり、その存在感は際立っている。「タケダの魂」といっても過言ではない。その「魂」を、武田薬品は売却した。
 そうせざるを得ない事情があったことは事実。英シャイアー買収に伴う多額の有利子負債の削減は急務だった。そして、会見でクリストフ・ウェバーCEOが語った通り、同社の現在の中核事業は「革新性の高い医療用医薬品ビジネス」であるため、「コンシューマー事業の成長に向け十分なレベルの投資が難しくなった」というのも正直なところだろう。噛み砕いていえば、「多額の投資をすれば、さらなる成長も不可能ではないが、グローバル市場を優先する以上、国内OTC市場にそこまでの投資はできない。そうであるならば、OTC事業を抱えていること自体、市場および株主に対して誠実さを欠く」といったところか。好意的な見方をすれば、ウェバー流の「タケダイズム」解釈といえなくもないが。
 翻って、TCHCにとっては一大転機だが、同時に好機でもある。ブラックストーンはすでに「成長のための投資」や「雇用の維持」などを約束している。将来的にどう転ぶかはともかくも、ひとまずは「今回の譲渡は新たな門出」(野上麻理社長)と捉えることができそうだ。
 本家武田薬品がグローバル企業へとひた走るなか、TCHCは「アリナミン」という「タケダの魂」を託された格好になる。今後、社名から「武田」の文字が消えようとも、「タケダイズム」の理念は「アリナミン」にこそ宿る。新社が国内OTC市場に新たな風を吹き込むことを期待したい。
(2020年10月23日掲載)