薬事ニュース社
オピニオン

>>>救急車の緊急事態<<<
 早く診察してもらえるからと、救急車をタクシー代わりに悪用するモラルの低い人が都市部を中心に増えている。それが本当に救急車を必要としている人への対応の遅れにつながり、救急現場は困惑しているという話も聞く。タクシー代わりに悪用する非常識な行為は問題外として、救急搬送された人たちの中には、実は軽症で救急車を呼ぶまでもないという実態がある。総務省消防庁によると、06年中の救急隊の出動件数約524万件のうち、救急車で搬送された人の52%が入院の必要がなかったという。救急医の過酷な勤務状況を訴える大病院の院長は、自院に救急搬送される患者の8割は軽症であることを明かしていた。
 国・自治体は街中にポスターを掲示し、救急車の適正利用のため、重症か軽症かの判断を生活者に求めるなどの取り組みを行っている。が、実はその判断はかなり難しい。過日、まさにこの判断が求められる場に遭遇した。検討会を傍聴していた人が途中、席を立って出口に向かって歩いていたかと思うと、突然、筆者の方に倒れかけてきた。「大丈夫ですか」と声をかけるも意識がないため、慌てて事務局に救急車を呼ぶよう促した。幸い、5分後には意識が回復。大事に至らずに済んだのだが、動転していた筆者は、救急車を促すことの妥当性に疑問を感じる余裕など全くなかった。
 本人ならまだしも、そうした状況に遭遇した者の多くは、「あの時、きちんと対応しておけば」という後悔をしたくないばかりに、救急車を呼ぶことが無難と考えるのではないだろうか。悪質な例には罰則や自己負担規定を設けるなど、なんらかの方策をたてることも必要だと思う。しかし、不必要な救急車の出動を減らすことを求めるのであれば、救急車が必要か否かという判断を助けるシステムの早期構築が望まれる。
(2008年12月19日掲載)