薬事ニュース社
オピニオン

>>>レスリング対野球の軍配は?<<<
 2020年の夏季オリンピック東京招致に向けて陣頭指揮を執っていた猪瀬直樹都知事が「イスラム教国は喧嘩ばかりしている云々」と失言して招致運動への影響が懸念されたり、柔道の女子日本代表やバスケットボール名門校での指導者の体罰が問題となるなど、どうもスポーツをめぐる負の話題が目につくが、これもそのひとつと言っていいだろうか、レスリングがオリンピック競技からの除外リストに載せられ話題になっている。
 「日本が強いから日本叩きだ」という感情的な論調も聞かれるが、これはおそらく的外れな意見。それが証拠にアメリカやロシア、イランなどのレスリング強国が、政治的問題を超えて共闘し、何とか除外を阻止しようと存続運動を展開している。第1回大会から実施されている「名門競技」であるがゆえの、伝統にあぐらをかいた姿勢が今回の危機を招いた一因ともされている。正直な感想を言えば、現代の「視聴率ありき」のオリンピックには大して興味をもてないし、天邪鬼ゆえ世間が「感動」だの「栄光への架け橋」だのと騒げば騒ぐほど鼻白むのだが、レスリングを除外候補としたIOCの決定には、現代のネット社会を象徴する理念を見せつけられたようで妙に納得もしている。「伝統があろうが名門だろうがそんなことはいっさい評価の対象にはならない。考慮すべきは数字(視聴率や売上あるいはアクセス件数)のみ」
 要はアイドルグループの人気投票みたいなもので、そういう意味で言えば、まあ分かりやすいと言えなくもないのだが、果たしてそれでいいのかというもやもや感が残るのも事実。たとえば、株価が上がったからそれでいいのか、人気があれば憲法改正も許されるのかというと、ちょっと待てよと言いたくなるのと同じ割り切れなさとでも言えばいいのか。いずれにしろ、数字というバロメーターに依存しすぎる風潮に危うさを感じる。ちなみに先のレスリングの件、オリンピック競技の最後の一枠を争う相手が日本ではレスリング以上に人気がある野球やソフトボールというのも何とも皮肉である。
(2013年5月24日掲載)