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>>>「待つ」力<<<
 奈良県立医大の石井均教授は2月20日、「糖尿病学の進歩」において心と行動のサイエンスとアートというテーマで講演を行った。そのなかで、患者が積極的に治療に参加できる環境を整えることの重要性に言及。患者が医師の診察を受ける前に受付の人などに手伝ってもらい診察時にどんな話をしたいかを決める。そのような相談ができた人はその治療に対する実効度が高くなり1年後の血糖コントロールが良くなるという証明があるということ。医療者や周囲の家族などの関わりとしては、「それを食べたらダメ」ではなく計画的に食べられるようにすること、言い換えると患者の自立性を高める、患者が自分でものを決められるような関わりが必要とのことだった。
 石井氏はさらに「行動変化はその人の人生観や生活になじんでいくスピードを尊重していきたい」と述べた。研究に基づいたエビデンスがあるもの(サイエンス)に対し、このような1人1人に沿った対応が必要な側面をアートだという。例えば、なんで自分が1型糖尿病になったのだろうなどというどこにも向けられない気持ちを患者がつぶやくとする。石井氏は「表面的には何も変わらない状況をサポートしていく姿勢、すなわち聴く力が必要。それを続ける力。そしてその患者に気持ちの変化が訪れるのを待つ力が必要」だと述べた。
 速さや効率を求められることの多い現代に「待つ力」を備えたいのは、糖尿病診療に限った話ではないのかもしれない。
(2016年3月11日掲載)