薬事ニュース社
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>>>素晴らしき哉、日薬マキャヴェリズム<<<
 本邦近代司法制度の父・江藤新平が「佐賀の乱」に敗れた後の裁判の様子が今に伝わる。当時の事実上の宰相・大久保利通は、政敵である江藤が目の上のコブであったため、自ら裁断の場に赴いて隠然と裁判をコーディネート。裁判長を買収して事をシナリオ通りに進行した。さらに法に拠る論理的弁口を封じるべく、江藤が一言発したとたん、捕吏に捕縄を引っ張らせて転倒させるという徹底振りで裁判を閉廷。結局、江藤は意見陳述の場すら与えられず、新国家の法典にない斬首・鳩首の刑に処された。前時代的空気の残る明治初期のマキャヴェリズムだ。
 さて平成の世、薬剤師を束ねる団体で、ひとつの弾劾がなされた。こちらは役員選挙だが、“ふさわしくない”副会長候補を排除することに成功している。まず、「言うに事欠いて、ある候補者は野党議員の支援を得ている」旨の怪文書が出回った。曰く、“日薬選挙では代議員の買収はOKだが、野党の支援を受けることはけしからん、落とせ”と。名こそ出さなかったものの、選挙前には一部代議員が当該候補者を個人攻撃。また弁明しようとした候補者を、ある意味「裁判長」ともいえる議長が壇上から制し、江藤裁判で言えば縄を引っ張った捕吏の役目を期せずしてか果たした。候補者は結局、所信表明を削って「身の潔白」を言明したが、すでに悪役化しており届くはずもなし。結局、落選。執行部は目の上のコブを排除するために一丸となり、手段を選ばず、見事な立回りで目的を遂げたとの印象も残した。日薬代議員会ではたびたびこうしたことが起こる。いちいちロジカルに対応していたのでは、事が前に進まないということで、内向きとはいえマキャヴェリズムが発揮されたのだろう。「集団指導体制」や「政治力」を強調する日薬。その言行一致の“素晴らしき”哉(かな)。
(2006年3月10日掲載)