薬事ニュース社
オピニオン

>>>海外進出する「先用後利」<<<
 正月に郷里の富山に帰り、新聞の地域面を開いてみると、「売薬さん」の現在を紹介する連載が始まっていた。富山の薬は1690年に富山藩主の前田正甫(まさとし)が、江戸城で腹痛を起こした他藩の藩主に反魂丹を服用させたことから知られ、その後、柳行李を担いで全国を歩いた売薬さんの存在によって知名度を高めた。現在では県内を拠点とする売薬さんの数は少なくなったものの、得意先の多い土地に移り住んだ「駐在型」の売薬さんが活躍中で、また、先に品物を預けて後で代金を徴収する「先用後利」の配置薬システムも、再注目されて多くの業種で活用されている──記事の内容は大体そんなところだ。
 興味を引いたのは、そのシステムが04年からモンゴルでも導入され、草原地帯などを中心に高い料金回収率を達成していたことだった。確かに需要がありそうとはいえ、薬の品質と売薬さんへの信頼のみで成り立つ古風なシステムが、21世紀に海外進出したことには新鮮な驚きを感じた。昨年からはタイでも、医療費軽減のために導入されているという。
 へき地医療や医療費軽減などの問題は多くの国で悩みの種となっているが、結局のところ大事なのは、やはり末端での人と人との関わりではないかと思う。全世界が実体の見えない数字や情報に翻弄されている時代だからこそ、この合理的かつ古くて新しいシステムには海外進出の余地があるかもしれない。県の出身者としては誇らしい。しかし重要なのは、このお家芸がお膝もとの日本で今後どう再評価され、新たな展開に結びつくか、だ。
(2010年1月15日掲載)