薬事ニュース社
オピニオン

>>>減塩生活前途多難<<<
 もう四半世紀ほども前のことになるが、スポーツにおける食事管理・栄養管理の重要性が認識されだした頃、その分野の第一人者として脚光を浴び始めていた栄養士の本多京子さんに話を聞く機会があった。本多さんは、ちょうど某人気プロ野球チームの春季キャンプに専属の栄養士として帯同した直後で、当然ながらキャンプの裏話で話は盛り上がった。なんでも球界の盟主を自任するその球団の一部主力選手は、全体の食事メニューとは別に、自分の好みの食材を持ち込んで食べることが黙認されていたのだとか。それだけでも、本多さんの目には食事に無頓着で「プロ意識が欠如している」と映ったのだが、なかでも本多さんの逆鱗に触れたのは、狙い済ましたように三遊間をライナーで切り裂く流し打ちと華麗な守備に定評のあった細身の内野手で、彼の好物は「カリカリに焼いたベーコン」。この「カリカリベーコン」を所望する彼に、「体が資本のスポーツ選手が食事に気を使わずにどうするのか」と厳重に注意したという。もう随分前のことゆえ、彼が本多さんのアドバイスを聞き入れて「カリカリベーコン」を断念したかどうかは失念してしまったが、いずれにしろ故障がちの選手で天性の才能を活かしきるまでには至らなかった。
 最近、かみさんの薦めもあって本多さんが著した「塩分が日本人を滅ぼす」(幻冬舎新書)を読み、それでふと大昔のエピソードを思い出したのだが、それはともかく日本人がいかに塩分過多の食生活を送っているか、改めて思い知らされた。そんな次第で我が家では現在、減塩計画が進行中なのだが、これが思うに任せない。何しろパンにまで相当の塩分が含まれているのだから、並大抵のことでは減らせない。挙句に何を血迷ったのか、ある日の献立には、ここ十数年来とんと目にしなかったトンカツが出てきてびっくり仰天。「ソースをかけなければ塩分も少ないと思って」とはかみさんの弁。でもそれじゃあ脂肪分が……。あちらを減らせばこちらが減らず、減塩生活前途多難である。
(2016年5月20日掲載)