薬事ニュース社
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>>>イノベーションの評価<<<
 シカゴで開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO2022)でのエキサイティングな熱気が、ここ日本にいても伝わってくる。大きな話題になっているのは、第一三共が創製し、アストラゼネカ社と共同開発している抗体薬物複合体(ADC)「エンハーツ」(一般名=トラスツズマブ デルクステカン)だ。
 同剤は第3相臨床試験「DESTINY-04」で、ホルモン受容体(HR)陽性のHER2低発現乳がん患者において、主要評価項目である無増悪生存期間を達成し、化学療法に比べ病勢進行または死亡のリスクを49%減少させた。また、HRの発現状況に関わらないHER2低発現乳がん患者においても、化学療法と比較して疾患進行または死亡のリスクを50%低下させた。さらに同試験で評価した全患者において、化学療法と比較して全生存期間の中央値を6カ月以上延長させた。「エンハーツ」は乳がん治療において「HER2低発現」という新たな分類を定義し、切除不能または転移性乳がんの治療に大きな変革を起こそうとしている。まさしく日本発の革新的医薬品だ。この発表を受け、スタンディングオベーションが沸き起こった会場の映像がSNSで拡散され、同薬がもたらすイノベーションを称賛する声が溢れている。
 翻って国内をみると、革新性が高く財政的影響が大きい医薬品は、費用対効果評価制度の対象となる。すでに「エンハーツ」も7月より薬価が約2・2%引き下げられることが決まっている。医療費抑制が喫緊の課題ではあるものの、これはイノベーションの評価として適切なのだろうか。「エンハーツ」は今後、まだ治療法がなかった多くの患者を救うことが期待される。その中で、日本人患者だけ置いてけぼりになるような未来があってはならない。
(2022年6月17日掲載)