薬事ニュース社
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>>>数学よりも“ケミストリー”<<<
 企業同士のM&A(合併・買収)は基本的に、事業のさらなる発展や、予想される継続的な低調を回避するために行われる。その執行は、PL、BSといった経営指標、およびビジネスシステムなどの組織構造をもとに、どの相手との関係が、キャッシュフロー、コスト、対外的信用といった面で最も有効な、または影響の少ない結果になるかという根拠をもとに決断される。この場合、細かい数値のズレは当然あるが、総体として定量的根拠に基づいたけっこうシャープなシミュレーションが得られる。ただ、M&Aの成否は数学的判断だけで決まるものではなく、“ケミストリー”が重要な役割を有す。
 M&Aでは、経営者同士が気軽に話をし、気が合うことのほうが重要であり、その“相性”のことをM&Aのメッカ、米国などではケミストリー(化学反応)が合う、と表現するらしい。両社の化学反応が同じであれば、より強固な関係で、よりよいシナジーを生み出せるということだ。これを、投資銀行などの数字合わせの提案で縁談(M&A)をまとめても、その後がなかなか続かないようだ。
そういえば芸術においても、ケミストリーの果たす役割は大きい。フレスコ画のことだが、砂と石灰からなるモルタルの壁材が乾かないうちに、水で溶いた顔料を重ねていくことで化学反応を起こし、単なる材層と材層の重なりや、溶剤を介して上塗りする絵画にはない、発色と耐久性というシナジーが生まれる。企業も芸術も大きな絵を描くときにケミストリーが大事な要素になるということか。
 化学産業である製薬産業にとって、ケミストリーの活用はお家芸だろうが、“言わずもがなの”あえての提案。M&Aを含めた組織のあり方に対し、製薬産業はケミストリーの効果を再認識すべき。以上、ご笑覧に供す。
(2006年5月12日掲載)