薬事ニュース社
オピニオン

>>>喉元過ぎれば<<<
 中医協・薬価専門部会は先ごろ、新型コロナウイルス感染症治療薬「ゾコーバ」に対する薬価上の対応を取りまとめた。具体的には、算定方法は類似薬効比較方式を採用し、類似薬の中から複数の比較薬を選定するなど柔軟な対応を行う。薬価収載後の価格調整では、コロナ患者の発生状況や同剤の投与割合、出荷量などの情報に基づいて年間販売額を推計し、「特例拡大再算定」の適否を判断する。
 このうち「特例拡大再算定」の適用基準となる年間販売額について、製薬企業側は議論の過程で「推計データを使って実施する再算定は年間販売額が1500億円超の場合に限るべき」と主張していたが、取りまとめでは「年間市場規模が1000億円超1500億円以下、または1500億円超とする」との記載に落ち着いた。
 また、同じく論点となっていた引き下げ率の上限の取扱いをめぐっては「予想販売額で影響が異なるものであり、引き下げへの激変緩和なども考慮した上で、現行制度通りとすることも含め、慎重に検討する必要があることから、薬価収載時に中医協・総会で検討する」とされた。
 「ゾコーバ」は、初の国産新型コロナ治療薬として、昨年緊急承認された経緯がある。しかし、紆余曲折の末に承認された途端、中医協では「高額医薬品として厳しく対処すべき」との議論に晒され、現行ルールを上回る対応を求める意見も相次いだ。これに対し製薬企業側は「差し迫った状況で承認された革新的な医薬品に対して、(薬価算定で)ペナルティを与えると、リスクを取る企業がいなくってしまう」と懸念を示していた。
 「あれは鬼っ子だから」。かつて、ある製薬企業幹部が、自社で保有する抗ウイルス薬について言った言葉である。ウイルスが流行すれば再算定の対象となり、流行しなければ一転、コストばかりが嵩む同剤を指してその幹部は「鬼っ子」と言ったのだ。それだけ、製薬企業にとって感染症領域の薬は賭けであり、リスクを孕むということだろう。医療保険財政が危機に瀕していることは、誰もが承知している。しかし、「リスクを取る企業」がいなくなってしまえば、保健衛生上の危機すら招きかねないことを、今回のコロナ禍は教えてくれた。「喉元過ぎれば」などと言われぬよう、この教訓を忘れてはなるまい。
(2023年3月3日掲載)