薬事ニュース社
オピニオン

>>>股上浅めは邪か?<<<
 ファッションに特段、強い関心があるわけではないが、ここ数年、ビジネススーツを新調するたび気になっていたのがズボンの股上、すなわち股から上の部分の丈の短さ。年々、短く、窮屈になっていくと感じるのは気のせいだろうか。しかし実際、5、6年ほど前のズボンと比較してみると、3分の2ほどにつまっていた。おじさんにとってはなんとも履き心地の悪い代物なのだが、若者たちは涼しい顔で履きこなしている様子。これも世代間ギャップだから仕方がない、と簡単に容認してしまうのも癪なので、機会ある毎に店先で(実際に購入するしないに関わらず)「股上を長くできないのか」と半ば挑みかかるような口調で訊ねるのだが、店員の答えは常に同じだ。「股上は直せないんです」という丁寧だが断固とした言葉、それに続けて「どうしても気になるようでしたら既製ではなくオーダーで注文していただくしかないですね」という決め台詞。なるほど、快適さは金で買うのが当然というわけである。
 最近では上着の丈まで短くなっており、お尻が半分くらい見えている男性も珍しくない。さすがにこれは美的感覚を疑うよなあと呆れていたのだが、慣れとは恐ろしいもので、あまりにそうした光景を見慣れたせいか、なんだか自分もそうしたほうがいいような強迫観念にとらわれ、過日、スーツを新調した際に上着の丈を少々短くするよう要望したところが、年配の店員に「あんなのは邪道」と逆に一喝されてしまった。邪な商品で儲けていたとは、なかなか侮れない業界だ。
 医薬品業界では昨年来、長期収載品から後発品への切り替えが急速に進行し、もはや後戻りはできないとされているが、ファッションの世界では一定のサイクルでかつての流行が再燃することもあるとか。そんなわけで、王道だろうが邪道だろうがズボンの股上が長く、深い時代が戻ることをひとり密かに願っているこの頃である。
(2015年2月13日掲載)