薬事ニュース社
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>>>「迷路のなかで」<<<
 大ヒット中のロックバンド・クイーンの伝記映画「ボヘミアン・ラプソディ」の陰に隠れて話題にもならないが、昨秋から開催されていたロブ・グリエの特集上映がひそかに盛り上がったらしい。あまりの好評ぶりに都内では年末までの上映予定が急遽、年明けに延期されたほど。ロブ・グリエといえば、第二次大戦後の仏ヌーヴォー・ロマンの旗手として著名な作家だが、映画監督としても、商業的にはともかく、それなりの評価を得ている。まあ、あらすじを説明せよといわれても、たとえば前述の「ボヘミアン」のような「わかりやすく」「感情移入しやすい」ストーリーなどは存在せず、そもそもがわかりやすい物語的な物語を拒絶するのがヌーヴォー・ロマンのヌーヴォー・ロマンたるゆえんなのだから当たり前といえば当たり前だが、そこがまた魅力ではある。
 魅力といえば、筆者にとってはむしろ、特集上映を機に絶版になっていたいくつかの著作が復刊されたことのほうがありがたい。そんなわけで、正月はロブ・グリエ再読に費やす羽目になったのだが、入手可能な作品では「迷路のなかで」はやはり秀逸。どこまでも果てしなく同じ情景が続くなかを彷徨う主人公の姿は、不明瞭で不安定な世界を手探りで進むことを余儀なくされた現代人にも通じるか。
 さて、我に返って現実社会に目を向ければ、年明け早々、「毎月勤労統計」の不正調査に関連して、いったん閣議決定した予算案を修正するなど、政治の世界も「迷路のなかで」辿るべき道筋を探しあぐねているような有様。厚労省、とりわけ社会保障への風当たりも一層、強まることが予想される。ことに社会保障をめぐっては、これまでも、財源に窮しては、最後は薬価を下げて何とか費用を賄うという、まさに迷路のなかを右往左往するかのごとき施策に終始してきた。果たして、薬価引き下げによる社会保障財源捻出という「迷路」から抜け出す道を見出すことはできるのだろうか。
(2019年2月1日掲載)