薬事ニュース社
オピニオン

>>>欲シガリマセン勝ツマデハ<<<
 ここ1年ばかり、大阪出張の際の宿の確保に苦労している。数か月先まで、どこのホテルも予約で一杯という状況がほとんど常態化していて、ほとほと参ってしまう。そのうえ、宿泊料金まで1年前の数割増しに跳ね上がっていたりするから踏んだり蹴ったりである。この業界でも、「爆買い」やらインバウンド効果やらで潤っているところもあるようだし、国が後押しする「観光立国」実現に向けて、多分、歓迎すべき傾向と言うべきなのだろう。だから、表立っては誰も不平不満は漏らさない。だけど……
 ダケド、イササカカネツシスギノヨウナキガシマセンカ?
 何というか、「観光で国全体が潤うのだから、少しばかり商いに支障が出たからといってぶうぶう言うな。お国のために我慢しろ」という無言の圧力みたいなものを感じたりもする。ふと、日本史の教科書でお馴染みのあの標語を思い出す。「欲シガリマセン勝ツマデハ」。「物騒な国と隣り合わせているのだから、危険が多少増すくらいで文句を言うな」「社会保障に金がかかるのだから、少しばかりの増税で目くじら立てるな」etc、etc……
 実際、医療費をめぐる議論でも、毎年の恒例行事のごとく「財政が厳しいのだから仕方ないだろう」的主張が繰り返されている。確かに、国民皆保険制度が崩壊してしまっては元も子もない。しかしだからといって、そのしわ寄せを特定の業界にだけ押し付けるのも考えものだ。
 いやちょっと待て。それなら患者はどうなるのだ?つい数年前までは「欲シガリマセン承認サレルマデハ」だった。それが改善されてきたと思ったら、今度は高額な薬剤の増加で、遠くない将来、「欲シガリマセン払エルマデハ」になりはしないか。年末に向けて医療費をめぐる議論は佳境に入るが、誰が、真に患者の立場に立ってモノを言っているのか、よくよく見きわめる必要がある。
(2015年10月30日掲載)