薬事ニュース社
オピニオン

>>>国民皆保険が崩壊する<<<
 TPPの議論が落ち着きをみせている。参加の意向を表明する前は、さまざまな意見が飛び交っていた。医療分野においては、「国民皆保険が崩壊する」との危惧から、参加すべきでないとの意見が強かった。
 この「国民皆保険が崩壊する」というフレーズは、いたるところでよく聞く。たとえば、規制制度改革において混合診療や医療への株式会社参入などが検討の俎上にあがったときなどもそうだ。「日本が世界に誇る国民皆保険制度が崩壊し、所得によって受けられる医療に差が生じる」と。本当にそうなのかもしれない。しかし、引っかかるのは、「今はそうなっていない」と言外にほのめかすような言いぶりだ。
 以前、本紙の取材で花井十伍氏(ネットワーク《医療と人権》理事)は、「高い費用が払えずに医療を受けられない患者はごまんといる。すでに皆保険制度は半分崩壊している」と語った。かくいう筆者のまわりにも、より効果が高い治療があるにもかかわらず、高額なために、対症療法を細々と続けている友人がいる。また、これは少し違う問題なのかもしれないが、生活保護の人たちは治験に参加することができないそうだ。すでに、所得によって受けられない医療は厳然と存在しているのである。
 「国民皆保険が崩壊する」という言葉が叫ばれるたびに、「またか」と思う。反対のための講釈に聞こえる。自分たちの主義主張に合わないものを反対するために、安易にこの言葉を使わないでほしいと思う。
(2011年12月16日掲載)