薬事ニュース社
オピニオン

>>>読書の秋にふと思う<<<
 今年のノーベル文学賞も、村上春樹ではなかった。村上作品は好きだが、そのことと、ノーベル文学賞の受賞とはあまり関係がないと思っているので、ここ数年のバカ騒ぎぶりはいささか異様に映る。根が天邪鬼のせいか、要するに飲み屋でくだ巻いて大騒ぎできるものなら、それがサッカーでもオリンピックの開催地発表でも何でも構わないのではないかと思えて仕方がないのだが、それにしてもノーベル文学賞を受賞できなかったことが大きなニュースになること自体、不可解である。だって候補者が発表されているわけでもなし、何を根拠にしているのかすら疑わしいではないか。
 村上春樹がノーベル文学賞有力候補と囁かれだしたのは、2006年にチェコの文学賞である「フランツ・カフカ賞」を受賞してからとされる。同氏の前年と前々年に受賞したのが、英国の劇作家のハロルド・ピンターと、映画化もされた「ピアニスト」の原作者であるエルフリーデ・イェリネクで、この2人が同賞受賞と同年にノーベル文学賞に輝いたことで俄然、現実味を帯びたわけだが、それからすでに7年が経過。結局、フランツ・カフカ賞とノーベル文学賞をダブル受賞したのは前述の2人だけで、根拠としてはあまりに弱いことがすでに露呈してしまっているのに、いまだこのジンクスにすがっているとすればあまりにおめでたい。
 とはいえ、世界文学の動向にちょっとでも通じている人ならば、英語圏だけでも候補になりそうな作家がごまんといるのは百も承知だろうから、毎年毎年、年中行事のごとく騒ぎ立てているのはマスコミと一部の祭り好きだけで、まあ勝手にやってくれと思う反面、しかしひょっとすると村上春樹がノーベル文学賞を受賞するまでこの狂乱が定期的に繰り広げられるのかと思うと少々げんなりする。そんなわけで、どうせなら早く受賞してくれればいいのにと、ここまで書き連ねた趣旨とはまるっきり矛盾する結論に傾きかけたり、でもそうなったらそうなったで今度は空前絶後のどんちゃん騒ぎに発展するんだろうなあなどとひとり気を揉んだりする秋の夜長である。
(2013年10月25日掲載)