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>>>「費用対効果評価」検討の行方<<<
 ついこの間までスマホスマホと騒いでいたのに、いつの間にか腕時計型携帯端末まで登場して、技術の進化のスピードに頭がクラクラするほどだが、革新という意味では医療・医薬品の世界も負けていない。ごく最近の例だけを見ても、HIVや関節リウマチなど、かつて不治の病と言われた疾患が薬でコントロール可能になった。むろん、アンメット・ニーズはまだ数多く存在するし、新興感染症や認知症、がんなど、克服されるべき領域も少なくない。しかしそれでも、がん免疫療法薬など、今後に期待を抱かせる新薬も着実に生まれている。ある製薬企業幹部は「2025年頃には、がんはある程度コントロール可能な疾患になっている可能性もある」とまで予測する。
 一方で、医療の高度化の代償として、治療に要する費用、すなわち医療費負担の増大という問題が、世界各国の財政圧迫要因として表面化している。こうした事情を背景に、日本でも「費用対効果評価」の検討が始まっているのは周知の通りだが、その本家本元である英国では、制度の運用に随分と苦心しているようだ。
 英国の制度は、医薬品などの新規医療技術を対象に臨床効果・費用対効果を評価し、予め設定された基準値を超えると「保険償還非推奨」となる仕組み。14年11月までの統計では、抗がん剤の4割以上が償還非推奨に該当するという。当然ながらその副作用として新薬へのアクセスの問題が持ち上がり、当局は救済策を余儀なくされた。具体的には、10年に公的基金を設置し、主に非推奨とされた抗がん剤を対象に公費補助を行っている。その給付額は11年~13年の年2億ポンド(約360億円)から、14年は2.8億ポンド(約500億円)、15年には3.4億ポンド(約600億円)に増額し、支払いは16年3月末までの継続が決定しているという。つまり、保険償還はしないけど、その分を公費で補填するという事態になっているわけだ。
 奇しくも現在、中医協で議論されている費用対効果評価も、お手本は英国の制度。周回遅れでの導入を目論む日本で、果たしてどのような工夫が施されるのか、成り行きに注目である。
(2015年3月27日掲載)