薬事ニュース社
オピニオン

>>>20xx年、「お笑い」処方せん発行<<<
 シベリアやアラスカに住むイヌイットは、かつて氷の上に裸で寝ても平気だったという。近世になって当地に乗り込んできたヨーロッパ人が「そんなことをしたら凍傷になってしまう」と“西洋医学の常識”を吹き込んだばかりに、それ以降、実際に凍傷に罹ってしまうようになった、とまことしやかに言い伝えられている。
 単なる言葉が、身体にリアルに影響を与えてしまったというわけだ。このエピソードもあながちホラ話だとは片付けられない。治験に使用されるプラセボの作用も大雑把に言えば、同様の理論で成り立っているのではないか。
 「思考は実現する」という。強く思い続けていた夢が実現した等々、具体例はその類の書物にたびたび散見される。さらに笑ったり泣いたりという感情の作用となると、物理的な身体にもヴィヴィッドに影響を及ぼす。
 最近「お笑い療法」という言葉を耳にした。確かに笑うことにより痛みや辛さを一時でも回避できたりするものだが、それ以上に「笑う」という行為が免疫力低下を防いだり、NK細胞活性化をも促したりもするとのことだ。こうした笑いの効用については、国際科学振興財団と吉本興業との共同研究や、とあるがん治療専門病院においても実践により証明されているという。
 「動脈硬化の患者Aさんには漫才コンビBのあのネタを」「睡眠障害のCさんには落語家Dのあの噺を」などと、笑い話やコントの形態を採った「精神作用」が処方(?)されるような日が将来やってきたら……その場合、診療点数はどうする?……などと想像してみる早春の宵である。
(2006年3月3日掲載)