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>>>科学的根拠とは<<<
 最近「科学的根拠」という言葉を頻繁に聞くようになった。東京電力福島第一原子力発電所における処理水の海洋放出に関連してである。政府は、大量の放射性物質が含まれた汚染水を多核種除去装置(ALPS)で処理し、さらに海水で薄めて海洋への放出を開始した。安全性に関しては、安全基準を満たしているため、環境や人体への影響は考えられないとしている。どうやら、この「安全基準を満たしている」ことが「科学的根拠」のようだ。国際原子力機関(IAEA)も処理水の海洋放出について、国際安全基準に合致しているとして、安全性が確保されていると報告した。この国際安全基準は何かというと、放射線防護の基準等について勧告を行う国際放射線防護委員会(ICRP)に行きつく。そして、ICRPの評価では、広島・長崎の原爆被爆者の疫学データが放射線安全基準の基礎となっている。
 我々が普段目にしている科学的根拠とは、ヒトを対象とした臨床試験から得られた根拠だ。とくにランダム化比較試験(RCT)やRCTのメタ解析、システマティックレビューが、エビデンスレベルが高いとされている。処理水を大量に海洋放出した際の安全性については、試験によって検証されたわけではない。本当に科学的根拠があるというのであれば、処理水と海洋水の2群にわけ、各郡での海洋生物の影響などを比較・検証する必要があるのではないか。放出前後での海水、魚類、海藻類のモニタリングだけでは心もとないと感じる。
(2023年9月15日掲載)