薬事ニュース社
オピニオン

>>>この国につけるクスリ<<<
 「国民は自らに相応しい宰相をしか戴くことはできない」という意味のことを言ったのがどこの誰だったかは忘れたが、けだし至言である。「美しい国」の安倍さんからこっち、「あなたとは違うんです」の福田さん、漢字読めない空気読めない麻生さんときて、政権が変わったから少しは違うかなと期待させた鳩山さんもやっぱり1年もたずに退陣。もう誰がやっても同じなんだろうなあという無力感に多くの人が苛まれていることと思うが、冒頭の警句に従えば、それが、いまの我々にはお似合いの惨状ということになる。
 確かに、鳩山さんの数々の約束は軽率だったが(なにしろ「トラスト・ミー」である)、その軽はずみな言葉に苦もなく乗せられたのはほかでもない我々だ。小泉政権からこのかた、国民もマスコミも、耳障りのよい言葉に飛びつきたがる風潮が見受けられるが、そのことはとりもなおさず、耳の痛い箴言にはほっかむりという無責任な態度と裏表の関係にあるということだろう。要するに、口当たりのよいことばかり並べたてる人物を担ぎ上げる土壌を育んだのは、ほかならぬ国民自身ということであり、どんなにトップの首をすげ替えても、この土壌が変わらなければやせ細った芽しか育たないのは理の当然である。
 ところで冒頭の言葉だが、「国民」のくだりは「組織」や「団体」「業界」に置き換え可能だ。4月から「新薬創出・適応外薬解消等促進加算」が試行的に導入された製薬業界も、未承認・適応外薬の開発などを「約束」した。もちろん、政治家みたいに「努力したけどできませんでした」で片付けるわけにはいかないが、ふと思う。希少疾病の治療薬や抗がん剤はいうまでもなく切実だが、もしかして、国民の大半がより痛切に求めているのは、「この国につけるクスリ」かも知れない。それも画期的な特効薬。もっとも、製薬産業だけでできるものではないんですが。
(2010年6月11日掲載)