薬事ニュース社
オピニオン

>>>物事にはいろんな見方がある<<<
 発売数週間で100万部突破、書店では品切れ続出と、新作長編「1Q84」が話題の村上春樹が、ある雑誌のインタビューで面白いエピソードを披露していた。いわく、前回の長編小説「海辺のカフカ」では、通常よりも薄い紙を使用した。これは、分厚い本は「電車で読めない」などの読者の要望に配慮した結果だったのだが、出版してみると今度は「通勤電車で読んでいると扇風機でパラパラめくれちゃう」という苦情がきたという。なるほどページ数の違いはあるが、新作はかなりのボリュームである。「単純に分厚い小説が好き」と語る村上春樹本人の好みには適っているのかも知れないが、個人的にはやはり薄い紙のほうがありがたい。ともあれ、物事にはいろんな見方があるものだと単純に感心してしまった。
 さて、製薬産業界の目下の関心事は「薬価維持特例」だが、ここでも「いろんな見方」がせめぎ合っている。業界代表として矢面に立つ薬価研の長野明委員長は、ここまでの中医協での議論について、「中医協委員は、(保険という)中医協の機能を前提に制度改革を見ている」のに対し、業界側は産業論を前面に出して主張を展開してきたと振り返る。その結果、「革新性のイメージのギャップが顕在化した」。このことは、配合剤の問題でも然り。企業にとっては「ライフサイクルマネジメント」の一環でも、立場が変われば「後発品の阻害要因」となる。長野委員長は今後、産業論をいかに中医協のロジックに翻訳して議論を主導していけるかがカギになるとの考えを示唆している。中医協と産業界の間に横たわる「イメージのギャップ」をいかに埋めるか、その手腕に注目したい。
(2009年7月17日掲載)