薬事ニュース社
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>>>漢方薬のブレイクスルー<<<
 和漢医薬学会学術大会を取材した。富山大学和漢医薬学総合研究所教授である門脇真大会長は、大会長講演で、ヒトゲノム解析や情報技術が飛躍的に進展するなか、漢方はそれら最新技術を活用しきれていないと言及した。また、東北大学大学院医学系研究科の福土審教授は、過敏性腸症候群に対する漢方薬の使用について「桂枝加芍薬湯」にエビデンスがあるものの、ガイドラインではエビデンスレベル「C」であることを指摘。「エビデンスが高い結果で証明する必要がある」とうったえた。門脇大会長は「これが漢方の現状。肝に銘じなければならない」と真摯に受け止めた。
 一方、アルツハイマー病治療薬開発で撤退が相次ぐ中、漢方薬および漢方含有成分が、認知機能を改善するる可能性があるとの講演もいくつか見られた。医療用医薬品として、とくに現在治療薬がない分野で漢方薬の可能性を見出していこうという目標を掲げる研究者が多いのだろう。
 それも目指すべき方向性ではある。ただ、取材で感じたことは漢方薬の「未病」「予防」への期待である。標準治療薬と併用する形で、合併症や副作用の予防目的で漢方薬を使用しているケースが多いのだ。ここに漢方薬のブレイクスルーを感じた。例えば、うつ病の合併症を抑制する漢方薬なら、まだうつ病を発症していない「未病」の人に対しても、その漢方薬が使えるのではないか。社会保障政策では「未病」「予防」に重点を置き始めている。「未病」に対する漢方薬のエビデンス構築に期待したい。
(2019年9月13日掲載)