薬事ニュース社
オピニオン

>>>臆病と大胆の狭間で<<<
 ライオンの様に強力な牙や爪を持たず、インパラほど早く走ることも鳥のように飛ぶこともできず、人間は他の野生動物に比べとても非力だ。それゆえに臆病な人間は常に周囲に注意を払い、リスクを察知するため慎重な行動を取り、知恵を働かせてきた。人類の文明は、人間自身の臆病さの上に築かれたようなものだ。そんな歴史を背負ってきたからか、人間は「まだ起こってもいない憂慮すべき事態」について、くよくよ思いを巡らせるのが好きだ。〝不安への巣篭もり〟というのは、本能が安心する事なのかもしれない。強迫性障害の人は「手を洗っても洗っても不衛生なままなのではないかと気になって、何度も手を洗い直す」という症状を見せると言う。一般健常者にとっては常軌を逸した行動に映るが、それと同様のことが人間のリスク・マネジメントにも見受けられるということだ。因果なものだが、そうやって人類は発展を遂げてきた。
 だが予想を超えるような事態は、いつかは起こる。考えに考え抜いた予防線も、あっけなく破られるかもしれない。そんな時、人間はいつものクセで「臆病さ」の中に逃げ込み、悲観的な妄想の虜となる。しかし予想が覆されるほどの事態に陥ったときこそ、人は大胆な発想をもって事に対処しなければならないのではないか。大胆な発想こそが、人類の歴史の中で何度もパラダイム・シフトを引き起こしてきたのではないか。そうやって人類は次なる段階へステップアップできるのではないか……と、やけに大仰なことを今日もまた、通常ダイヤの7割程度の運行状況のため酷い混雑状態にある東京の某私鉄線車内で思う。
(2011年4月1日掲載)