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>>>人文社会系学部は不要か<<<
 直木賞作家の車谷長吉氏が亡くなった。ウィキペディア風にかいつまんで経歴を記すと、「広告代理店等に勤務の傍ら私小説作家を目指すも、執筆に行き詰まり、旅館の下足番や料理屋の下働きとして関西地方を転々とする。その後、再度上京し、作家デビューを果たす」。関西時代を描いた直木賞受賞作の「赤目四十八瀧心中未遂」は映画化もされている。享年69歳。死因は食べ物を喉に詰まらせたことによる窒息死。独特の「毒」のある作風に相応しく、死に態までもが並外れていた。
 同氏は慶応大学文学部出身だが、著作によると、父親には医学部か法学部を勧められたという。医者になって稼ぐか、法律の抜け穴を見つけてうまいこと世間を渡るよう言われたとか。それはさておき、筆者も人文系学部出身だから多少は身に覚えがあるのだが、当時の大学の同級生や先輩には、同氏ほどではないにしろ(何しろ慶応出身というエリートでありながら、一時は「世捨て人」として食うや食わずのところまで堕ちたのだから)世を拗ねたようなはぐれ者がごろごろいた。文学だの哲学だの芸術だのポストモダンだのと、よくもまあ実生活にはほとんど役に立ちそうもないことに現を抜かしたものだと、今となっては思う。
 そういう「役にも立たないことに現を抜かす」連中が許せないのだろうか、文部科学省が国立大学に対し、文学部や社会学部など人文社会系学部および大学院の見直しを要請した。「社会に必要とされる人材を育成できないなら、廃止や転換を検討せよ」ということらしい。確かに人文社会系学部に国費を投じたところで、科学技術の進歩には貢献できないかも知れない。でも、実利に結びつかないものをムダと切り捨てる度量の狭さこそが、成果を挙げるためには不正も厭わないという昨今のアカデミアの一部に蔓延る悪習の遠因となったのではあるまいか。
 まあ、人文系出身者が独り毒づいたところでどうにもならないので、ここはひとつ、車谷長吉氏が生きていたならばきっとそうしたように、一言、「卦ッ体糞悪い」と吐き捨てるにとどめておこう。
(2015年9月11日掲載)