薬事ニュース社
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>>>ムラカミ・ワンダーランドの終り<<<
 「やはり金融市場主義には明らかな欠点がある。云々」などというリュウさんのご託宣と、ハルキさんの「やれやれ」という溜息まじりの呟きが聞こえてきそうだ。他でもない、日本を代表する2人の作家と同姓のヨシアキさんがインサイダー疑惑で逮捕された事件のこと。その功罪についての論評は一般各紙誌にお任せするとして、ここでは独断と偏見に満ちた感想をひとつ。
 少し前、「マネー・ボール」という本が話題になった。米国メジャーリーグで、資金力の乏しいアスレチックスが、出塁率や長打率といった独自の指標に基づく選手獲得術を駆使し、ヤンキースなどの金満球団と互角にわたり合ったいきさつを記した本だ。あの三木谷さんも楽天創設時に参考にしたというその本の中に、アスレチックスが採用する選手評価基準のモトネタとなる理論を編み出した人物が、当初、メジャーリーグ関係者からまるで無視されたというエピソードがある。この人物は落胆し、そして悟る。「我々はアウトサイダーである」と。やがてこの理論はアスレチックスで花開くわけだが、当の球団フロントも自分たちのやり方が異端であることは十分認識している。アウトサイダーの矜持とでも言おうか。
 さて、ヨシアキさんも日本の社会ではアウトサイダーであったように思う。異端者としての苦言には、それなりに説得力もあった。しかし、いつの頃からか権威に祭り上げられ、自らもそう自認していたのかも知れない。アウトサイダーとしての誇りを貫き通すことができなかったツケがインサイダーとは、何とも皮肉な結末ではある。
(2006年6月30日掲載)