薬事ニュース社
オピニオン

>>>国境の壁、国籍の壁<<<
 バンクーバーオリンピックよりも、こちらのほうに国威の発揚や愛国心を意識させられたという御仁も多いのではなかろうか。あの世界のトヨタのリコール問題、である。先だって開かれた米下院の公聴会に自ら出席し、議員の厳しい追及に晒された豊田章男社長の姿は、さながら公開の吊るし上げといった趣きである。
 さて、中間選挙を控えた議員の「政治的パフォーマンス」と皮肉られもした公聴会だが、非常に当を得た指摘もいくつかあった。とりわけ、「リコールの決定権限が日本の本社にしかなかったこと」が、リコールの遅れを招いたとの批判はきわめて手厳しい。日本有数のグローバル企業が、組織体制としてはローカルのままであると酷評されたようなものなのだから。
 人も企業も国境の壁など軽々と超えていくグローバル時代にあって、しかし生まれながらに身体にしみついた習慣や、まして国籍までも変えるのは、やはり相当な困難を伴うのであろう。「郷に入っては郷に従え」とは、言うは易し、である。今回はトヨタという日本ブランドが問題となったわけだが、日本における外資系企業の場合も事情は同じこと。「本社の意向」という壁の“厚み”に関しては、むしろ外資系企業のほうが上だ、と考えるのはやはり日本人の贔屓目か。
 そういえばバンクーバーオリンピックでも、米国やロシアの代表として出場した日本人選手がいたが、かつてと違いこうした移動が大きく取り上げられることはなくなった。目的のためには国籍までも変えてしまう個人の軽やかさと対比するほどに、現代社会における企業という組織にとっての「国籍」の意味を考えさせられる。
(2010年3月5日掲載)