薬事ニュース社
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>>>ドラッグ・ラグ再燃の現実味<<<
 3月4日に告示された2022年度薬価改定で、象徴的な数字が明らかになった。「新薬創出加算」をめぐって、累積加算分の返還額が、制度導入後初めて、加算額を大きく上回ったのだ。
 「新薬創出加算」のこれまでの加算額と返還額の差額を見ると、12年度改定では、加算額が690億円、返還額130億円で差し引き560億円、14年度は570億円(加算額790億円、返還額220億円)、16年度700億円(加算額1060億円、返還額360億円)と、当初は加算超過の傾向で推移していた。それが、薬価制度の抜本改革で要件が厳格化された18年度は160億円(加算額810億円、返還額650億円)、20年度では20億円(加算額770億円、返還額750億円)にまで縮小。そして今回改定では、加算額約520億円に対し、返還額は約860億円となり、返還額が加算額を約340億円上回った。
 「新薬創出加算」は、特許期間中の新薬による収益を確保して開発コストを回収し、ドラッグ・ラグの解消や革新的な新薬創出の促進を目的に10年度から試行的に始まった制度だが、要件厳格化を境に、そもそもの制度の趣旨が揺らいでいるのではないかとの見方もある。
 米国研究製薬工業協会(PhRMA)のデイビッド・リックス会長は1月の会見で、「最近数年の薬価政策の変更が日本における新薬上市スピードを低下させている」と持論を展開。具体的には、2015年から2020年の期間の研究開発投資が、グローバルでは33%増加したのに対して、日本では薬価制度改革等の影響で9%減少したと指摘した。また、同期間中に上市された新薬のうち、米国では8割以上が承認されたにも関わらず、日本では4割ほどしか承認されていないことなどを挙げ、「好ましくない政策変更の結果、世界的に販売される新薬が日本で上市されるスピードは確実に低下している」と警鐘を鳴らしている。
 ドラッグ・ラグの再燃は、より現実味を帯びている。
(2022年3月18日掲載)