薬事ニュース社
オピニオン

>>>クオリティー・オブ<<<
 この会社に入った日、つまりこの業界に入った日に与えられた最初の仕事は、プレスリリースの原稿化だった。自分はそこで〝QOL〟という言葉を初めて目にし、少し考えた挙句、「生活の質」と書き換えた。原稿に目を通した当時の上司はその箇所について、「間違ってはいないが、業界では頻出する用語なのでそのままでいい」と教えて下さった。そんな事情は露知らず、耳慣れない英語の類はとにかく日本語に噛み砕くべきと思い込んでいた自分は、何となく肩透かしを食ったような気になった。とはいえ特に拘るべき事ではないとも思い、素直に納得して今に至る。
 それから数年後の現在は、外資系企業の会見や国際的な会合などの取材をする機会も多くなり、同時通訳のお世話になる機会が増えた。しかしリアルタイムで聞いている時には理解できても、後で原稿作成の段になると意外に難渋する。というのも通訳さんの日本語訳には、程度の差はあれど、かなりの英単語がそのまま残されているからで、てにをは以外は全て英語かと思うようなケースさえある。
 しかし日本語で聞いても難解な話が多い業界だけに、通訳さんの苦労は計り知れない。スピーチの速度によっては完璧な日本語化は無理と思えることも多いし、そもそも外来語の日本語化がどの程度進められているのか、という疑問もある。まずはその作業が追いついていないようでは仕方がない。
 国策として外来語を徹底的に古語に置き換えるアイスランドのようにすべき、とまでは思わないし、ある程度専門的な世界においては外来語の氾濫は避けられない。しかし将来、日常会話までもがこんな調子になったとしたら──日本語のクオリティーのディクラインは必至で、人々はコミュニケーションに難渋するのがアパレントだ。辞書を買おうと思う。
(2013年1月25日掲載)