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>>>プロット・アゲンスト・アメリカ<<<
 「プロット・アゲンスト・アメリカ」は、一昨年亡くなった米国人作家、フィリップ・ロスの2004年発表作品で、いわゆる「歴史改変小説」というジャンルに分類されている。第2次世界大戦下の1940年、ルーズヴェルトに勝利してアメリカ合衆国大統領に就任したリンドバーグは、大西洋横断に成功した飛行家であり、国民的英雄として人気を博した反面、反ユダヤ主義者の顔も持ち、実は裏でヒトラーと通じていた、という設定。リンドバーグ政権下の米国は第2次大戦に参戦しようとしないばかりでなく、国内ではユダヤ人に対する差別が横行、ユダヤ人である著者自身をモデルとする主人公のフィリップ少年一家は、父親が職を奪われ、コミュニティーでも孤立するなど、逃げ場を失っていく。やがて、大統領の乗った飛行機が行方不明となり、ユダヤ人の陰謀を疑う人々による暴動が激化、主人公一家も徐々に追い詰められていく……
 あらすじを読んでも明らかなように、この小説は、国民の分断を煽った「トランプ政権を予見していた」とも評されており、発表から15年以上も経た今年になって米国でテレビドラマ化されたのもうなずける。
 タイトルの「プロット・アゲンスト・アメリカ」は、直訳すると「アメリカに対する陰謀」。先の米国大統領選挙では、現職の大統領が、「選挙で不正があった」「陰謀が行われた」などと根拠も示さずに主張し、敗北を認めないという驚くべき事態に陥った。4年前、自身が勝利した大統領選挙における「ロシア疑惑」に関しては、「フェイクニュース」「でっちあげ」などとしてまともに取り合おうとさえしなかった当の本人が、その4年後、今度は「不正がなければ自分が勝っていた」と訴える様は、滑稽を通り越して悲惨ですらある。
 いずれにしろ、世界の民主主義を体現するはずの米国大統領が、民主主義システムそのものに挑むかのように、選挙結果を覆す目論見を隠そうともせず、またそれを無批判に支持する者が相当数にのぼるという事実は、今後の世界の行く末を暗示しているようで、何ともうすら寒い思いがする。
(2020年12月11日掲載)