薬事ニュース社
オピニオン

>>>食卓の効用<<<
 1964年、東京オリンピックでマラソン銅メダルを獲得した円谷幸吉は、メキシコ五輪が始まる年に「もう走れない」と遺書を残して自害した。彼の遺書には「父上様、母上様、三日とろろ美味しゆうございました。干し柿、餅も美味しゆうございました。敏雄兄、姉上様、おすし美味しゆうございました。克美兄、姉上様、ブドウ酒とリンゴ美味しゆうございました。」と、美味しい食事を家族と共にした内容が綴られている。当時の日本は家族で食卓を囲むことで、人間形成や家族の絆などを育てていたとされ、彼は家族を思い浮かべる時は、まず“食”だったという。
 近年、1人で食事を摂る“孤食”、おのおのが別々の食事を摂る“個食”が増加傾向にあり、1人で食事することを孤独ではなく、気楽でよいと感じる小学生などもいるという。空腹を満たすことが目的の食事には、家族で囲む食卓すら不必要なのだろうか。“キレやすい”情緒不安定な子供が増えている一因にも“食”の乱れを指摘する人もいるが、実際に少年院に入る少年達は家族と食事をすることがほとんどなく、友人と一緒か、一人で食べていることが多かったとの報告もある。また、食卓を囲む原風景のない非行少年は人間関係の不信感やつまづきをなかなか払拭出来ず、更正に時間がかかるという。
 “食”という字は“人”に“良”と書き、「食を通じて人を良く育てる」のが“食育”といわれ、以前は当たり前だった家族揃っての食卓は、教育の場でもあった。仕事を早めに切り上げて、たまには食卓を囲んでみてはいかがだろう。
(2006年2月17日掲載)