薬事ニュース社
オピニオン

>>>最も知っている人は?<<<
 今さらではあるが三浦しをん著の「舟を編む」という小説を読んだ。出版社に勤める馬締青年が、辞書編集者として辞書作りに没頭する物語で、今年は映画化もされた。登場人物の誰もがひたむきに辞書制作に向き合う姿は感動的で、ぜひ映画も観てみたいと考えている。
 この小説は11年に書籍化され、12年には本屋大賞を受賞した。この本屋大賞は「全国書店員が選んだ いちばん!売りたい本」をキャッチコピーに掲げ、書店員が商品である本と顧客である読者を最も知る立場にいるとして、投票も書店員のみが行っている。今年は百田尚樹著の「海賊とよばれた男」が受賞したほか、過去には東川篤哉著「謎解きはディナーのあとで」(11年受賞)や冲方丁著「天地明察」(10年受賞)、湊かなえ著「告白」(09年受賞)など、ヒット作がズラリ。過去の受賞作はいずれも映画やテレビドラマになっており、本屋大賞が持つ影響力の高さが伺える。錚々たる作家陣が審査員に名を連ねる直木賞や芥川賞などにも負けない文学賞の1つになったと言えるのではないだろうか。
 それにしても、作家でも出版社でもなく「書店員こそが本と読者を最も知っている」というのはすごい自信だ。常に読者の一番近くにいるからこそニーズを的確に把握でき、本当にお勧めできる作品を選べるのだろうか。一方、医薬分業への批判やOTC薬のネット販売などの問題で揺れる薬剤師はどうだろう。「薬剤師こそが医薬品と患者を最も知っている」ともっと胸を張ることができれば、風向きも少しは変わってくるのかもしれない。
(2013年7月12日掲載)