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>>>クリントン候補が落胆した本邦医療制度の未来<<<
 米国では11月の大統領選に向けた2大政党候補者の指名争いが激化している。共和党は指名候補が絞られてきたが、対する民主党はオバマ、クリントン両候補の一進一退の攻防が続いており、勝負はまだ見えていない(2月15日時点)。
 米大統領選の争点の1つに医療保険改革が挙がっている。昨年公開の米医療制度を批判した映画『シッコ』の影響が多分にあるようだが、6人に1人が無保険者の米国では、高額な治療費を前に医療へのアクセスが遅れ、毎年1.8万人の国民が落命しているとのデータがある。「医療保険改革が大統領選の勝敗を分ける」と観測する米メディアが少なくないのも頷ける。
 各候補者は、政党を問わず、無保険者層対策を求める世論の意向を酌み、具体的手段は異なるが、揃って皆保険化を選挙公約に掲げている。が、医療保険改革に最も思い入れがあるのはクリントン候補だろう。93年、大統領だった夫の肝いりで設置された検討組織の委員長に任命され、国主導型の医療保険制度創設を謳った抜本改革プランを答申した。このプランは国民的合意が得られず、結局94年に廃案となったが、実は委員長時代に日本の医療制度を参考にしようとお忍びで来日し医療現場を視察した逸話がある。しかし、都市部と地方の医療格差、病院勤務医の激務に驚き、「とても真似できない」と落胆して帰国したという。
 15年も前の話だが今聞いても自然に受け止められるのは、日本の医療提供体制が何の対策も打たれず今にあるからだろう。日本政府はようやく重い腰を上げ、勤務医等対策として総額161億円を08年度に予算計上し、08年度診療報酬改定では1500億円強の医療費財源を充当することを決めた。現場は「焼け石に水」と財源の少なさに不満を漏らすが、ここは勤務医対策に一石を投じたことを評価し、その費用対効果を見守りたい。
(2008年2月22日掲載)