薬事ニュース社
オピニオン

>>>20年越しの問いかけ<<<
 通勤中に通りかかった古本屋で与謝野晶子の「みだれ髪」を見つけた。洋画家の藤島武二が手掛けたモダンな表紙が美しく、いつか手にしたいと思っていた1冊だった。
 10代の頃に出会った与謝野晶子の生き方は鮮烈だった。男尊女卑の思想を当たり前とした封建的な時代の中で、瑞々しい感性で愛や性を歌にしただけでなく、妻子ある男性を愛し略奪、才能が枯れた夫に代わり女手ひとつで家族を養い、女性の自立を訴え平塚らいてうと「母性保護論争」を繰り広げた。賛否両論あれど、私は、「女性が自由に人生を選んでいいのだ」と教えられた気がした。
 昨今、SNSを中心に、セクハラ被害を告発する「MeToo」運動や、社会が望む“女性らしさ”から抵抗する「脱コルセット」運動など、それぞれの人がその人らしく生きられる世の中を実現するため、ジェンダーに関する積極的な議論が広がっている。時事通信の1月の世論調査によると、選択的夫婦別姓の導入に対して「賛成」が50・7%となり、「反対」の25・5%を大きく上回ったという。多様性が尊重される社会において、家父長制の在り方に対して意識の変化が出てきたと言える。
 一方で、一度植え付けられた価値観を崩すことは容易でないし、行き過ぎた主張は新たな分断を生みかねない。デリケートで難しい問題だ。だからこそ、知ることを恐れず学び続けなければいけない。あにはからんや20年越しで手元に飛び込んできた本は、そんなふうに問いかけているようだ。
(2021年1月22日掲載)