薬事ニュース社
オピニオン

>>>嘘は市民社会への挑戦<<<
 黄禹錫(ファン・ウソク)教授の胚性幹細胞(ES細胞)研究疑惑をめぐって、ソウル大学調査委員会はこのほど、「黄教授にヒトクローン胚からES細胞を作る技術はない」と結論付けた。体のあらゆる組織や臓器に育つ可能性を持つ、いわゆる「万能細胞」とも呼ばれるES細胞――。難病患者においてES細胞による再生医療実現への期待は大きい。韓国政府は昨年6月、黄教授に「第1号最高科学者」の地位を授与、毎年300万ドルの研究資金まで提供することにした。が、論文は捏造だった。
 「不正はなかった」――。韓国ではなく、日本の話である。東京大学の多比良和誠教授は、自らが発表したRNA(リボ核酸)に関する論文ついて、こう主張する。しかし、東大研究科が下した結論は「再現性はない」というもの。事実上の不正認定と結論付ける。多比良教授は、たんぱく質合成に関わるRNA研究の第一人者。また、自らの研究成果をもとにした「iGENE」(アイジーン)などベンチャー2社の運営にもかかわっているという。
 国内外の状況を受け、政府は国費の助成対象のデータ捏造などの不正防止のため、新たなルール整備に乗り出した。監視体制や罰則強化などを検討する方針で、3月に閣議決定する第3期科学技術基本計画に基本方針を盛り込むとしている。「企業のうそは市民社会への挑戦」――。ある人は言う。マンションの耐震“偽”装、ライブドアの“偽”計取引といい、“偽”が蔓延している。「人を見たら泥棒と思え」。そんな世の中になってしまったとしたら、それはとてもさみしいことだと思う。
(2006年2月10日掲載)