薬事ニュース社
オピニオン

>>>ほしいものの消失<<<
 本屋に行くと便意をもよおす、という通説がある。本から漂う紙やインクの匂いが中枢神経に働く…などともっともらしい話を耳にしたことがあるが、その原因はいまだ解明されていない。あまつさえこの現象自体が立証されてもいないだろう。しかし御多分に漏れず自分も、そのような現象を幾度となく経験しており、信ぴょう性が高い説だと感じている。もう一つ、科学的に解明されていないものの、誰しも経験したことがあろう通説として「100均に行くと買いたいものを忘れる」がある。この「100均」は、場合によってはドラッグストアや某会員制大型スーパーなどとも言い換えられるだろう。要するに「あ、アレ買っておかなきゃ」と思って出かけたものの、店に足を踏み入れた途端、数秒前まで頭の中にいた「アレ」が脳から消え去るのだ。
 10月1日より、原料価格の高騰や円安の影響を受け、食品を始めさまざまな商品やサービスが値上げとなった。必要なものはそれまでにまとめ買いを、と各報道が推奨していた。9月30日、ギリギリのところでそれを思い出し、仕事終わりに買い物へ向かう。「思い出してよかった」と安心して店に足を踏み入れた途端、例の現象に襲われた。ほしいものが消失したのだ。できるだけ安く、お得に、たくさん購入してみせようという浅ましい心理が脳内物質を放出させ一種の興奮状態に陥らせるのか。ともあれ目的を失った私は店内を周回し、脳内から消えたものを探し続けた。
(2022年10月14日掲載)