薬事ニュース社
オピニオン

>>>「一度は数のうちに入らない」<<<
 「一度は数のうちに入らない」と書いたのはチェコ出身の作家、ミラン・クンデラだ。いわく「人間というものはあらゆることをいきなり、しかも準備なしに生きるのである。(中略)そんなわけで、人生は常にスケッチに似ている。しかしスケッチもまた正確な言葉ではない。なぜならばスケッチはいつも絵の準備のための線描きであるのに、われわれの人生であるスケッチは絵のない線描き、すなわち、無のためのスケッチであるからだ」
 無のためのスケッチのごとく、世界は前例のない事態に見舞われている。前例のない少子高齢社会、前例のない格差社会、前例のない経済危機。念願の政権交代を実現した民主党にとって、この前例のない難局を、ぶっつけ本番でいかに乗り切るかが最初の試練となるわけだが、そこで民主党が打ち出したのは、これまた前例のない「政治主導」という手法だ。
 「政治主導」によって各省の政策発表の姿も様変わりした。原則「官僚による会見」を禁止し、大臣や政務官が省の方針を直接、表明する姿が連日のように報道されている。政治がここまで前面に出てくることはかつてなかっただけに、見ている側にも「変化」を強く印象付けるだろうことは疑いない。むろん、変化には痛みも伴う。事務方との関係がしっくりいっていないとの噂も耳にする。しかしそうした点をも克服しようという気概を、現政権からは感じる。
 さて、冒頭のクンデラの言葉には続きがある。「一度だけ起こることは、一度も起こらなかったようなものだ」。「たった一度の政権交代」で終わらせないための民主党の改革は、これからも続く。
(2009年10月16日掲載)