薬事ニュース社
オピニオン

>>>抗原検査キットのOTC化<<<
 「医師会にも様々な考え方の人がいるが、私自身はOTC薬をもっと活用すべきと考えている」――。東京都医師会の尾崎治夫会長は、7月8日に都内で開かれた「セルフメディケーションの日シンポジウム2022」に寄せたビデオメッセージでこのように語った。「基本的に医師はOTC薬があまり好きではない」(日本医師会役員経験者)とされるなか、日医のなかでも大多数の会員を束ねる都医の会長による発言はインパクトも大きい。
 こうした発言の背景には、新型コロナウイルス感染症の拡大による医療提供体制の逼迫もあるだろう。友人がコロナの初期症状を発症したため、近隣の発熱外来を受診しようと連絡を入れたところ、大半の医療機関で混み合っていて予約の取れない状況にあり、数日電話をかけて何とか受診に漕ぎ着けたという。その友人は当初、軽い喉の痛みを覚えただけだったが、数日後に発症した味覚障害で発熱外来の受診を決断した。しかし、感染の急拡大で発熱外来に患者が殺到している状況下では、検査を受けにくい事態が生じている。
 尾崎会長はビデオメッセージで「あまりにも日本の医療はフリーアクセスに傾き過ぎており、何でも医者に行けば済むと考えている。そうなると本当に医療で大切に診なければならない患者が、時間的にも診れない状態になってしまう」と述べ、「ある程度は自分で気を付けてOTC薬を活用することも大事だ」とも強調した。政府は現在、コロナに感染しているかどうかを簡易に調べることができる「抗原検査キット」について、OTC薬化することを検討している。OTC化することでインターネットでの販売を解禁し、発熱外来への受診集中を緩和したい考えだ。医療機関の負担軽減も期待できる。
 ただ、尾崎会長はOTC薬の使用促進に向けて、国民・生活者自身の「ヘルスリテラシー」の向上が前提になるとも指摘する。「『効かないから倍服用した』といった話も出てくる。薬剤師がきちんと説明すれば良いのかもしれないが、(国民・生活者自身が)ある程度は分かっていないといけない」とも話す。適正に使用されなければ重症化が進み、却って医療機関の負担増に繋がるケースも想定される。それは抗原検査キットのOTC化も同様だろう。国民・生活者のヘルスリテラシーの向上に向けて、薬剤師の果たすべき役割は少なくない。
(2022年8月19日掲載)