薬事ニュース社
オピニオン

>>>偏在という悪循環<<<
 厚生労働省の「医師の需給に関する検討会」の報告書がこのほどまとまった。この報告書によると、全国の医師の数は年々増加しているとした上で、地域並びに診療科別の医師の偏在を解消する必要があると指摘。すでに地域で定着策を講じているにもかかわらず医師が不足している県の大学医学部において、これまで将来的に医師が過剰になるとの観測から抑制してきた定員数を、暫定的に増やすことなどについて検討すべきとした。
 そもそも、地域や診療科における深刻な偏在に至った背景には、医療の高度化・専門化、研修医制度改革、患者の医療や医療従事者に対する意識の変化など、多くの原因がある。ここで重要なのは、偏在の最も大きな被害者は、実際に現場で働いている医師であるという視点。過疎地や人員の少ない診療科などでは、実質24時間勤務という過酷なケースもあると聞く。こうした職場に配置された医師は、医療に対する情熱が燃え尽きてしまって離職するケースが少なくなく、また、よりよい環境を求めて勤務先を変えるという選択をする場合もあるが、こうした流れが一層偏在化を進めることになっているのが現状だ。
 つまり、この問題を解決するためには、医学部の定員を増やすことや、高い目的意識をもった医師を育成するということ以前に、国が、偏在医師の労働環境を改善するための支援や、より良い医療提供体制のシステム作りについて目を向けなければ、偏在悪循環の環は断ち切れないだろう。
(2006年8月4日掲載)