薬事ニュース社
オピニオン

>>>肺がん、ドラッグラグ、マスコミ報道<<<
 芸能レポーターの梨本勝氏、劇作家・演出家のつかこうへい氏、劇作家・小説家の井上ひさし氏……。今年は、なぜか肺がんによる著名人の訃報が目立つ。肺がんは、日本人の死因ワースト1位のがんの中でも死亡者数トップのがんとして知られるが、治療の苦しさもまた、想像を絶するものがあるという。そうした肺がん患者や家族、さらには医師の悲痛な思いが悲劇に結びついてしまったのが、まだ記憶に新しい「ゲフィチニブ」による事故だ。
 2002年7月、世界に先駆けて日本で承認された抗がん剤ゲフィチニブだが、発売からわずか3カ月で急性肺障害、間質性肺炎による死亡が相次ぎ大きな問題となる。新薬は、薬価収載を待って発売するのが通例だが、同剤の場合は承認後、7月中旬から8月末の薬価収載までの期間も、特定療養費制度を活用した異例の供給が行われた。それだけ、肺がん患者も医師も待ち望んだ薬だったわけだが、結果的にその切望感が悲劇に結びつくことになってしまう。この事故を教訓に、全例調査などの承認条件は厳格化され、市販直後の重点的な安全性監視のシステムが構築されることになるのだが、一方で「承認した責任を取れ」といわんばかりのマスコミの一斉批判に晒された厚労省は、以降、「日本人データの少ない新薬」の承認に極端に及び腰になる。
 だからドラッグラグの問題は、ここがひとつの分岐点になった、見方を変えれば、ドラッグラグの原因の一端を、「犯人捜し」的報道手法に求めることもできるくらいだが、正義の味方を自任する大マスコミ様はそんなこと思いもよらないだろうな。過日、一部の適応外薬に限り、正式承認を待たずに保険適用を認める仕組みが決まり、マスメディアでも大々的かつ好意的に報じられたのを目にして、ふと、そんなことを思い出した。
(2010年9月17日掲載)