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>>>国産のゲノム編集技術<<<
 「CRISPR-Cas」システムを利用したゲノム編集技術の、医療への応用に期待が高まっている。特に2020年のノーベル化学賞で評価された「CRISPR-Cas9」の登場は、ゲノム編集の可能性を大きく前へ推し進めた。海外では2021年、リジェネロン社とインテリア社が「CRISPR-Cas9」を利用したin vivoゲノム編集候補薬「NTLA-2001」に関し、トランスサイレチン型アミロイドーシス対象の第1相試験における良好なデータを発表した。このほか、多くの企業が研究開発に着手している。
 一方で「CRISPR-Cas9」は複雑な特許の状況があることから、国内での医療応用にハードルがある。そのため大阪大学や東京大学、CiRAらの研究チームは国産の新規ゲノム編集技術である「CRISPR-Cas3」を開発した。実際にヒトiPS細胞においてデュシェンヌ型筋ジストロフィー遺伝子の修復に成功したと公表している。また22年1月には同技術を用いたCOVID-19迅速診断法に関する論文を発表。さらに大阪大学発となるスタートアップ「C4U」を設立し、「CRISPR-Cas3」の社会実装に向けたゲノム編集の基盤技術開発に取り組んでいる。C4Uの平井昭光代表取締役社長は、「遺伝子治療というのは国民の理解を得にくいが、遺伝子の悪い部分を削除するという外科手術に近い、いわば遺伝子手術」とし、「社会でCas3が活かせるよう尽力する」と意欲をみせている。すでに住友ファーマやノイルイミューン・バイオテックなどと共同研究提携などの契約を締結し、開発が進められている国産のゲノム編集技術。患者に届く日はそう遠くない。
(2023年3月31日掲載)