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>>>「眠り」<<<
 「眠れなくなってもう十七日めになる」という告白で始まる村上春樹の短編小説「眠り」では、主人公はしかし「私は不眠症のことをいっているわけではない」とも語る。「私はただ単に眠れないのだ。一睡もできないのだ。でも眠れないという事実を別にすれば、私は至極まともな状態にある」。そして実際、「体にも何の変調もない。食欲もある。疲労も感じない。現実的な観点からいえば、そこには何の問題もない」。
 もっとも、これはあくまで小説の中の話。現実の世界では、睡眠が健康に与える影響は、様々な研究から明らかになっている。
 「健康づくりのための睡眠指針」の改定作業が現在、厚労省の検討会で進められている。これは、2024年度からの第三次健康日本21のスタートに向けて、14年に策定された指針のバージョンアップを目指すもので、10月初旬に開催された第2回会合では、「睡眠指針2023」の改定案が示された。今回の改定案の目玉は、これまでの研究結果等を踏まえ、年代別に睡眠に係る推奨事項や数値目標を設定した点。
 具体的には、年代別の睡眠時間の指標として、「成人」は「6時間以上」としたほか、「1~2歳児」は「11~14時間」、「3~5歳児」は「10~13時間」、「小学生」は「9~12時間」、「中学・高校生」は「8~10時間」の睡眠時間を確保することを「推奨」している。成人の睡眠時間の指標の根拠としては、「睡眠時間が7時間前後の場合に、生活習慣病やうつ病の発症および死亡リスクが、もっとも低い」と解説。また、適正な睡眠時間に加えて、「睡眠休養感」を得ることも、「健康増進と健康寿命の延伸に効果的」としている。さらに、「アルコールは一時的には寝つきを促進するが、睡眠後半の眠りの質を顕著に悪化させる」とするなど、嗜好品と睡眠との関係にまで踏み込んで記載している。
 なるほど、健康のためには、お酒に頼るよりも、お気に入りの本を睡眠のお伴にするのがよいかも。面白すぎて目が冴えてしまっては元も子もないが。
(2023年10月20日掲載)