薬事ニュース社
オピニオン

>>>みんな帰りましたよ<<<
 今月の初め、日本臨床薬理学会年会の取材を機に、約3年ぶりに浜松市を訪れた。自分にとって浜松はなかなか心躍る街だ。その理由は何といっても、この街が日本最大級の南米人人口を抱えているから。89年の入管法改正以降、大企業の工場が多いこの辺りには、日系ブラジル人を中心に多くの出稼ぎ労働者がやってきた。10代の頃から結構な時間と労力を海外、特に中南米の旅に費やしてきた自分にとって、浜松はささやかながらも異国気分を味わわせてくれる貴重な街なのだ。
 そんなわけで自由に食事ができるチャンスには、鰻や餃子などの名物には目もくれず、ブラジル人やペルー人が経営する食堂に足を運んだ。しかし何軒かを覗いたところ、どの店も週末の良い時間帯の割には客が少ない。また、前回訪浜した際の足跡を辿ると、あったはずの店が無いということも結構あった。
 そこで前回も利用したブラジル人の食堂に入り、店のおばちゃんに客が少ない理由を聞くと、案の定「みんな帰りましたよ」と寂しい返事。勿論、帰った先は会社の寮などではなく地球の裏側だ。思えば前回訪れたのはリーマン・ショックの少し前。当時も景気は悪かったと思うが、それでもまだ「派遣切り」という言葉は耳にしなかった。
 日系人の急激な流入には賛否両論あったが、しかし日本国内でも国際色あふれる新たな文化が花開くかもしれないことについては、個人的には面白いと考えていた。とはいえこの調子だと、花はあっさりと枯れてしまうのかもしれない。そんな事を考えながら、一般的な日本人の店ではまず食べられない、硬い肉質のスペアリブを噛み締めていると、何だか惜しいような寂しいような、少々おセンチな気分になってしまった。
(2011年12月23日掲載)