薬事ニュース社
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>>>緊急避妊薬の調査事業を巡る喧騒<<<
 厚生労働省は11月30日、緊急避妊薬のスイッチOTC化に向けたステップとして、全国145薬局で調査事業を行うことを公表した。事業は日本薬剤師会に委託して実施されており、あくまでも緊急避妊薬の販売環境整備に向けた試験という位置づけだ。購入希望者は調査協力への同意が必須となるなど、これまでの医療用医薬品のスイッチ化と比較して、かなり高めの要件を設けた。委託を受ける日薬は、今回の事業に対して並々ならぬ姿勢で準備を進めており、担当役員は「国家プロジェクトへの協力」と会員に呼びかけるほどだ。背景には、遅々とするスイッチOTC化の更なる推進、コロナ禍で浸透したコロナ・インフル検査薬の薬局・薬剤師による提供の浸透など、保険調剤に依存した現状から脱却する一手としても視野に入れている。慎重に準備を進めてきた日薬とは裏腹に、一部メディアが内部調整段階の事業内容を公表するなど、女性の権利問題と相まって報道は過熱気味。日薬は定例記者会見で報道には不正確な内容もあるなど説明を重ねた。X(Twitter)などSNSでは「ようやく誰でも購入できる」、「希望しない妊娠を避けることができる」など、歓迎する声は少なくなかった一方、「1錠7000円以上だと未成年が気軽に購入できるものではない」といったものや「ネット販売ができないので利便性は低い」など、批判的なコメントも散見された。今回の調査事業に対し、都内で薬局を経営する薬剤師は「そもそも論で、緊急避妊薬は現在でも医療機関を受診すれば入手できるし、オンライン診療でもそれは可能。SNS等の意見はこれまで緊急避妊薬を入手することができなかったと思わせるほど。妙に期待が高まっているのには違和感はある」と現場感覚を打ち明ける。振り返ればこれまでの緊急避妊薬のスイッチOTC化の議論では、医師会側の強い抵抗により、スタートラインにも立てなかった。こうした経緯を踏まえれば、大きな前進と言えよう。日薬は1月末を目途に調査事業の中間解析を実施する予定にあるが、十分な調査数があがってくるかは未知数。いずれにせよ、年度内にわたって継続する調査事業を巡る喧騒は、しばらく続きそうだ。
(2023年12月8日掲載)