薬事ニュース社
オピニオン

>>>医療貯蓄口座という考え方<<<
 米国内で破産した人の半数が医療費の高騰が原因で破産しており、その大半は中産階級であることが調査で判明した――先進国の中で唯一、皆保険制度を敷いていない米国の笑えない現状である。そんな中、米国では一部に貯蓄型の医療保険が導入されている。個人単位で医療費が目的の「医療貯蓄口座」を開設、その口座は税金が優遇される仕組みだ。税金の高い米国ではその税優遇策は魅力的かもしれない。また、従来ある保険の様々な制限から解放されているのもメリットのひとつと言える。
 もしこの制度が日本でも使えるならば、と想像してみた。大抵の場合、医療費が掛かるのは年を取ってからである。若い頃からせっせと貯めて、身体にガタの来る60代以降に存分に使えるようにしたい……いや待てよ、医療費にしか使えない貯蓄なのだから使わないと損なのか? あるいは、どうせなら若いうちから慢性疾患などの予防に勤しんで、後々大枚をはたかなくても済むようにすればいいのでは(医療費抑制?)。その貯蓄は配偶者や扶養家族にも転用できるのだから……などなど想像するのは勝手なので色々な思いに至るのだが、実際「医療貯蓄口座」を採用しているシンガポールでのモデル調査によると、その残高が足りていようと不足していようと、予防行動には何の影響も与えない、という結果が出ているという。
 国民皆保険というアクセス面では“ありがたい”制度で守られている日本ではあるが、各人が自律的な医療の受け手であるべきだと考えさせられる「医療貯蓄口座」のコンセプトを、医療経済を鑑みる一助として何がしかに応用するのも、一つの道かもしれない。
(2006年10月27日掲載)