薬事ニュース社
オピニオン

>>>全人種がマーケット対象の時代<<<
 昨年日本の人口が、史上初の少子化による自然減となった。そして、あらゆる市場マーケットの対象が国内から海外へ向けられていく。国内においてすら、人口減を補填するべく国外から流入してくる多種多様な人種をターゲットにせざるを得ない時期が来るだろう。現に都内の我が家の近所では東アジア圏出身の店員さん、アフリカ系の家具屋、西欧系の教師、カリブ諸島系の音楽家らが顔見知りのように暮らす。医療・製薬関係者にとっては、(異なる環境下で紡がれてきた)様々な遺伝子を有する人種の生活者を対象に、各々のミッションを遂行しなければならなくなる、ということだ。
 人種間による差異は憂慮するほどにはない、とも言われるが、「東洋人には延命効果がある」と評価された製剤もあれば、「東洋人では副作用の危険性が増加」と警告を受けたものもあるのが現実。血栓症など特定の人種が罹患しやすい疾病もある。さらに薬物代謝機能に人種間差異が認められれば、適正用量にも影響が及んでくる。
 開発における制度上の課題もさることながら、案外大きく影響してくるのが各国の医療文化・習慣の相違。抗生物質の使用法に関しても、日本では緩やかな使い方が主流なのに対し、短期集中的に投与する国もあると聞く。また細身のアジア人の切開手術に慣れていた外科医が、脂肪層のはるかに厚い人種の手術に際して戸惑う場面も出てくるだろう。
 かくして医薬品開発にはますます「国際共同的」な要素を考慮する必要性が出てくることになり、ICHも日米欧の3極だけでは追いつかない時代がやって来る。さらに医療現場では異文化間の橋渡しを担う「医療文化コーディネーター」なる未知の職種が必須になる……かも知れない時代に我々は生きている。
(2006年6月23日掲載)