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>>>忍者のような交渉術<<<
 4月6日、SGLT2阻害薬「ジャディアンス錠10㎎」(一般名=エンパグリフロジン)の電子添付文書が改訂され、効能または効果において「左室駆出率の低下した慢性心不全患者」に対する制限が削除された。この改訂によって同剤は、左室駆出率を問わず成人慢性心不全患者の治療薬として使用可能な初のSGLT2阻害薬となった。
 心不全の治療は、「左室駆出率」が40%以下の場合を左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)、50%程度保たれた場合を左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)と位置づけ、治療方針が定められている。SGLT2阻害薬は、血圧、心拍数、カリウムに影響せず、漸増が不要であることから、どのような患者にも投与可能であり、すべてのプロファイルの上位に位置している薬剤となっていたが、これまで「HFpEF」に対する有効性および安全性は確立されておらず、「HFrEF」のみが適応となっていた。今回の改訂により、「ジャディアンス」はアンメットニーズの残る心不全治療の領域に高く貢献することが期待される。
 特筆すべきは、この治療オプションの発展が、対面助言に基づく添付文書の改訂によって変更となった点だ。同剤はすでに米国ならびに欧州で「左室駆出率を問わない心不全治療薬」として適応があるが、いずれも米国食品医薬品局(FDA)ならびに欧州医薬品庁(EMA)の承認を得ている。国内においては、申請・承認のスキームを通さずにこの大きな制限の解除が行われた。まるで忍者のよう――と言ったら語弊があるが、この水面下の交渉術には拍手を送りたい。
(2022年4月22日掲載)