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>>>ドント・ストップ・ビリーヴィン<<<
 公開中のドキュメンタリー映画『ジャーニー/ドント・ストップ・ビリーヴィン』を観た。75年のデビュー以来、メガ・ヒットを連発してきた米国を代表するロック・バンドのジャーニーが、98年に看板シンガーを失ったのち長らく低迷するも、07年には新たなシンガーを見つけて華々しく復活する、というストーリーだ。ポイントはその新たなシンガーが、動画サイトのYouTubeによって発掘されたフィリピンの無名のローカル・シンガーだったこと。IT時代ならではのシンデレラ・ボーイ(当時40歳だが)の誕生、ということになる。
 ジャーニーといえば、大柄な白人男性たちによるアメリカン・ロックの象徴のようなイメージがあるだけに、モロに東南アジア人の小柄な少年(そう見える)がシンガーを務めている眺めには、確かに若干の違和感がある(同じ黄色人種としては痛快だが)。声質も白人とは少々違うし、バンドはかなり思い切ったと思う。本人も最初のうちは、旧ジャーニーと自分のイメージの落差に引け目を感じていた。しかし結果的には充分に代役を務め、さらにはバンドの新たな看板として、大いに存在感を示しているのだった。
 結局のところ、人種の違いとは一体何なのか、と思わされてしまう。身体能力をはじめとする人種間の違いは厳然として在るし、その違いを認識することは、時に重要なことでもあるだろう。しかし個人の形質は稀にその隔たりを飛び越えて、ドラマを作り出す。彼らは音楽性を全く変えずに見事な復活を果たしたが、背景にはそんな人種間のドラマやマジックが色濃く見える。全く違う人種を看板に据えたことで、バンドはファンの一部を失ったと聞くが、得た物は遥かに大きかったと思える。
(2013年4月26日掲載)