薬事ニュース社
オピニオン

>>>痛みとは何ぞや<<<
 第42回日本疼痛学会で聞いた佐世保共済病院・境哲也先生の講演がとても興味深かった。慢性痛に対する薬物療法に関する講演だったのだが、とくにおもしろかったのは「慢性痛を形成する因子」についてだ。「どんな人や環境が慢性痛を起こしやすくするか」といったことだが、まず女性のほうが慢性痛になりやすいという。これは女性のほうが骨粗鬆症になりやすいことと関係するそうだ。そのほか「保険システム」「経済状態」「教育レベル」も関連するとのこと。
 「保険システム」については、日本では外傷性頚部症候群(むちうち)の患者が多いことと関係する。日本では自賠責保険で慰謝料を請求できるため、痛みをうったえる人が多いという。海外にはこういう保険システムがないため、痛みをうったえる人は少ないそうだ。「経済状態」では、お金がある人ほど慢性痛になりにくいという調査があるとのこと。お金があれば、いろいろなことをして痛みを紛らわすことができるからだとか。そして「教育レベル」。極端にIQが低いと、痛みがなぜ起こっているのを理解できず、不安が大きくなる。そうすると慢性痛になりやすいという。
 こう見ると「痛みとはなんだ?」と思ってしまう。これはケガは治ったのに痛みだけは続いてしまう慢性痛でのことなのだが、つまり慢性痛は「心理的・精神的な要素」が占める割合が大きいということだ。「いたいのいたいの飛んでけ~」は、慢性痛においては正鵠を射ているわけである。
(2020年12月25日掲載)