薬事ニュース社
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>>>1度は数のうちに入らない<<<
 「1度は数のうちに入らない」。チェコの亡命作家、ミラン・クンデラの「存在の耐えられない軽さ」のなかで、ドイツの諺が何度か引用される。「1度だけおこることは、1度もおこらなかったようなものだ」「人生はたった1度かぎりだ。それゆえわれわれのどの決断が正しかったか、どの決断が誤っていたかを確認することはけっしてできない。所与の状況でたったの1度しか決断できない。いろいろな決断を比較するための、第2、第3、第4の人生は与えられていないのである」。
 さて、菅総理が、「1度は数のうちに入らない」といったかどうかは知らないが、緊急事態宣言は2度の延長を経てようやく解除された。とはいえ、コロナウイルス感染収束の道筋はまだまだ見通せない。クンデラの言に従えば、「われわれのどの決断が正しかったか、どの決断が誤っていたかを確認することはけっしてできない」ことになるが、それはさておき、このコロナ禍において、政府が関係者の反対を押し切って断行した「中間年薬価改定」の影響を危惧する声が関係者の間でじわりと広がっている。当初の想定を超える引き下げ規模となったことで、製薬企業の研究開発力低下を懸念する見方が大きくなっているのだ。
 そうした状況を背景に、自民党は3月、社会保障制度調査会のもとに「創薬力の強化育成に関するPT」を設置。新型コロナウイルス感染症に対するワクチン・治療薬の開発で海外に遅れをとる現状などを踏まえ、国内製薬企業の創薬力強化を後押しするため、薬価政策や税制など様々な医薬品産業政策に関する議論を深めていく方針を示している。
 製薬産業界にとっては歓迎すべき動きではある。ただ、自民党PTが行った業界ヒアリングでも、「様々な提言があったが、もっとも多かったのは薬価政策関連」(出席議員)というように、行き着く先は薬価だ。「次(の中間年改定)は全面改定になる」(関係者)との悲観論もあるなか、「(2年に)1度は数のうちに入らない」といわんばかりのいまの政府の姿勢では産業育成は覚束ない。
(2021年4月2日掲載)